1 第4条に基づく発信者情報の開示請求の要件
情報の流通により名誉・プライバシー権等権利を侵害されたと主張する者(以下,「被害主張者」という。)は,開示関係役務提供者(プロバイダ等のうち,当該情報の流通に使われた設備の提供者等,以下,「プロバイダ等」という。)に対し,第4条第1項所定の2つの条件(@侵害の明白性,A開示の必要性)を満たす場合には,発信者情報(発信者の氏名,住所,IPアドレスなど,なお,開示可能な情報については,『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)』)の開示の請求ができる。
発信者情報の開示は,直接発信者のプライバシー権等と衝突するため,以上のような厳格な要件に絞って,開示を認めることとした。送信防止措置(第3条関係)は比較的容易に行われるものの,まったくの任意交渉で,プロバイダ等から発信者情報の開示が行われることは,余り期待できない。
そこで,通常は,Aを明らかにするためにも,裁判によってかかる請求を行う。
なお,(社)テレコムサービス協会の策定する書式及び同協会の推奨する開示請求手順については,こちらを参照されたい。
2 発信者情報開示請求は,2度必要となる場合が多い
第4条が発信者のプライバシーに3条以上に配慮する規定となっているため,発信者情報をプロバイダ等から取得するのは,任意手続では困難を伴う。多くは訴訟によって解決することとなると思われる。
しかし,被害主張者が,掲示板やチャットの管理者であるプロバイダ等に対し訴訟を提起すれば解決する問題ではないことが多い。それは,次のような事情による。
A)発信者(2条4項)
(インターネットに接続:接続を行う「経由プロバイダ」)
↓@ 情報の記録または入力
B)掲示板などのウェブサーバー
↓A
C)不特定の受信者
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被害主張者は,まず,掲示板などのウェブサーバーの管理者に対し,発信者情報の開示を請求する。しかし,掲示板などの管理者は,発信者情報の全てを知っている訳ではない。例えば,「2ちゃんねる」に書き込みを行う際,発信者は,何らの個人情報を入力することがなく書き込みを行うことができる。せいぜい,「2ちゃんねる」の管理者は,発信者がウェブサーバーに残した「アクセスログ」等一部の情報を知るだけである。従って,権利侵害を主張する者が掲示板管理者に開示請求を行っても,そこで開示される情報は,「アクセスログ」など,ただちに個人の特定を行うことは難しい情報に限られる。
しかし,この「アクセスログ」を解析すると,発信者が当該掲示板など(のウェブサーバー)に書き込みを行った際の「インターネットプロトコルアドレス(IPアドレス)」という情報が分かる。これは,「218.162.10.185」など,16進数2桁×4つの数字で構成されている情報であるが,「IPアドレス」によって,どのプロバイダを経由して発信者が当該掲示板などのウェブサーバーに書き込みを行ったかが分かる。また,当該掲示板の管理者が発信者の「電子メールアドレス」を知ることができた場合,当該電子メールアドレスが商用のものであれば,当該プロバイダを経由して発信者が当該掲示板などのウェブサーバーに書き込みを行ったことが推認可能である。
このような,発信者と掲示板などのウェブサーバー間の情報を媒介するプロバイダのことを「経由プロバイダ」というが,経由プロバイダは,掲示板の管理者よりもより発信者に近く,上記@の通信(の一部)を媒介する者である。例えば,商用プロバイダであれば,課金の関係から,発信者の正確な住所氏名等を知っている可能性が高い。
そこで,発信者情報を求める被害主張者は,まず,掲示板などの管理者などに「IPアドレス」等の開示を受けた上で(第1の開示請求),「IPアドレス」等に基づき判明した,「経由プロバイダ」に対し,発信者情報の開示請求(第2の開示請求)を行うこととなる。
要するに,通常の掲示板への書き込みに関し,発信者を知ろうとする場合,2回の開示請求手続が必要となり,(任意に応じてくれない場合は)2度裁判をせねばならない,ということになる。
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