大胆予想!2025年の日本の法曹界!

2006年12月4日
藤 本 一 郎




 米国留学も法律事務所研修を経て終盤に近づき、色々と実務の現場で米国の法曹界について学ぶものがありました。隣接法律職との調整が十分に行かないなかで法曹だけが急激に増える結果、いったいどういう将来が待っているのか??あんまり先のことは分からないですが、米国の例を踏まえて、私なりに2025年の日本の法曹界を大胆予想してみようと思い、ここに記する次第です。

1 統計的な将来
2025年、米国並みの法律家人口を迎える!

 ご承知のように、2010年ころから、日本の司法試験合格者は毎年3000人程度になることがほぼ決まっています。もっと多く!という声もありますが、取りあえずはこの数字を使います。

 既に2007年には、新司法試験合格者と旧司法試験合格者がほぼ同時に弁護士登録をするという事態が発生し、2007年1年で2500人もの法曹が誕生することとなっています。

 その結果、2006年11月現在、約23100名の日本国資格の弁護士がいますが、2025年には、ざっくりした数字として、2007年以後の新規登録者約5万2000人(司法修習修了者5万4000人から裁判官・検察官になるであろう者3000人程度から裁判官・検察官を辞めて弁護士になる人1000人程度を控除した数を差し引いた残数)が増え、引退する弁護士数約4000人(おおむね40〜45年程度で引退すると仮定)を差し引いても約7万1000人の弁護士がいることになります(なお、同種の調査として、今年の「弁護士白書」に詳細が記載されているらしいですが、私は海外にいるため、その数字を見ていません(50年後に12万人云々の記事だけは読みましたが、おそらく白書内に2025年の記載もあると思うのですが)。おそらく単純な計算なのでその「白書」とそう離れた数字になっていないと思うのですが、もしもご存じの方がいらっしゃれば引用したいので教えて下さい)。

 この数は、現在の3倍であり、かなり劇的な法曹人口の増加になります。

 そして、既に「藤本大学」でも指摘しているとおり、アメリカでは税理士・行政書士・司法書士・弁理士・社会保険労務士の資格も、いずれも弁護士がやるべき仕事に含まれ、単独の資格はない(特許弁護士といった資格はあるが、弁護士が取るべきものとされる)ので、これらの現在の人数16万2000人がそのまま維持されるとすると、弁護士との合計では、23万3000人もの「法律家」がいることになります。

 この23万3000人という数字は、日本の現在の医師数27万人(平成16年、引用元は日本医師会の資料)にも匹敵する数です。誰もがお世話になる医者とほぼ同じ数の法律家がいるということは、相談しやすくなるという意味ではプラスであり、他方で医者ほど常に必要とされる存在ではないかもしれない法律家がそこまで居る必要があるのか、という疑問を生じさせるものともなります。

 また、日米の人口比を念頭に置けば(日本1.25億v米国3億≒1:2.5、しかし日本は1億2500万人という人口から急激に減少を始めていますが米国は今年3億人を突破しなお急増中・・・2025年では1:3くらいにはなっているでしょう)、現在の米国における弁護士登録総数100万人、現実に弁護士として稼働している人数73万5000人(引用元は米国労働省の資料)というのですから、2025年に、法律家の人数としては、既に現在の米国並みの水準となる、ということが言えると思います。

2 米国の現状
大事務所(Law Firm)の高給取りが米国弁護士の全体像に非ず

 2025年に米国並みの法律家人口になるというのですから、米国の現状について的確に把握することは、2025年の日本を把握することにつながります。前述の労働省のサイトなどいくつかの参考となる資料から現状を数字で洗い出し、次に私の実感を添えて述べてみます。

 全米での弁護士登録数は、前にも申しあげたとおり、およそ100万人です。
 おそらく最大の登録者を抱える州は、カリフォルニア州で、2006年11月現在、20万6600人程度の登録者がいます。

 しかし、弁護士登録者の全てが、法律事務所であれ企業内であれ、弁護士として仕事できているワケではありません。前述したとおり、おそらく稼働している人数は、労働省の統計等から判断しても、およそ73万5000人程度ではないかと思われます。これは、例えばまさに私のように、New York州弁護士として登録しながら(今日現在ではまだしていないですけど)、実際は国外にいるために稼働できない者や、合格はしたものの、登録が形だけで仕事がない者がいるからだと思われます。

 弁護士の反映度合いは収入で測ることが容易です。大手のlaw firmでは、パートナーの場合年収60万ドル(約7000万円)を超えることも珍しくなく、初年度アソシエイトでも、10万ドル(1150万円)を超えることは良くあることです(データ引用元はこちら(2003年))。しかしこれは弁護士の全体像を示すものではありません。既述の労働省のWebsiteによれば、アメリカの弁護士の平均年収は9万4930ドル(約1100万円)です(2004年)。これは、実は現在の日本の弁護士の平均としてまことしやかに語られている1500万円とか2000万円といった数字よりも相当低くなっています。大手law firmの事情からすれば、新人から大ベテランまで含む年収の平均がこのような額になるのは想像し難いかもしれません。しかし「弁護士が稼げる」米国でさえ、これが現実なのです。

 この現実をより詳細に見ていくと、弁護士の階層化を見て取ることができます。  上記労働省も引用しているNational Association of Law Placementという機関の出している最新の統計をここからは見てみましょう。

 まず、一般のLaw firmで働く弁護士の場合、25人未満の小規模事務所の場合は、初年度年収の平均は6万7000ドル、逆に501人以上の大規模事務所なら平均13万5000ドルです(2006年)。

 しかし他方で、Public Defendantをする弁護士や、Civil Legal Servicesをメインとする弁護士の年数は全く違います。初年度の弁護士でおおよそ4万ドルあたりが平均となっています。年数を重ねても余り上がりません。10年以上の経験者でも6万5000ドルが平均となります(2006年)。

 いずれにせよ、Law Firmで働くLaw School卒業生(卒業後9ヶ月=2006年2月15日時点)は、全雇用の55.8%(2005年)に過ぎません。なお、この時点でなお働いていない者が10.4%いますので、卒業生全体からすれば、ほぼ50%ということになります。

 この55.8%のうち、101名以上の事務所で働くのが37.3%(卒業生全体からすれば18.6%程度)、逆に10名以下の事務所で働くのが39.2%(卒業生全体の19.6%程度))。

 法律事務所勤務以外ですが、会社などビジネスの世界で働くのが13.2%、政府・地方関係機関で働くのが10.6%、Judicial Clerkとして原宅のが10.5%、、NPOなど非政府の公的機関が4.8%、軍で働くのが1.2%、学術関係(進学を含む)が1.8%となっています(分類不明が2.1%)(出典はこちら等)。

 つまりは、米国では、ロースクールに行き、どこかの州の司法試験に合格しても、法律事務所で稼働するのは主流派とはいえ、絶対的ではないし、法律事務所にて稼働した者でも、「大事務所」所属は主流とまではいえない訳です。大事務所が多数あるアメリカ(人数の上でのトップ50はいずれも600名以上の弁護士を抱えます)ですら、100名以上の法律事務所で働くのはLaw School卒業生の2割で、それ以上に、10名以下の法律事務所で働く卒業生の方がいるわけです。だから、1000万円以上を稼ぐ弁護士も、主流ではないし、そのような大事務所に行った新人弁護士も、みな将来が約束されている訳ではなく、パートナーになれるのはごく一部ですから、いつまでも厳しい競争が待っている訳です。

 事務所間の競争という観点ではどうでしょうか。

大事務所は繁栄、しかし一人勝ちに非ず。大事務所でも倒産の憂き目も。

 少し資料は古いですが、全米では、人数で50位までの法律事務所は全て弁護士600名以上であり(最大はBaker & McKenzieが3246名を抱える)、250位の法律事務所でも155名の弁護士がいるようです。既に述べたとおり、弁護士の人数は全米で約100万人、これは現在の日本の2万3100名からすると、およそ43倍いる訳です。ところで、日本の人数で50位の法律事務所は、現在19名の弁護士を抱えており、その52事務所(19名の事務所が複数あるため)で働いている弁護士の総数はおおむね日本の全弁護士の1割強(2384名、但しこれは2006年4月時点であり、10月弁護士になった59期を加えるともう少し多くなる)になります。他方、全米の人数上位50事務所での弁護士の総数は4万6920名(上記少し古い資料に基づく)であり、現在の弁護士登録数とのタイムラグを考慮するとおおよそ5%位ということになると思いますが、これも既述のとおり、米国では弁護士登録者の全てが稼働している訳ではなく、現在のLaw School卒業者のうち法律事務所で勤務するのは50%程度であることを考慮すれば、Law Firmで働く弁護士の中で上位50事務所が占める割合、という観点で考えれば、同じように1割程度である、といえるのかもしれません。しかし最大の人数の事務所同士(日本だと200名強、アメリカだと3246名)を比較すれば分かるように、実はアメリカの現在の方が日本よりも寡占化が進んでいない、と判断することも可能かもしれません。

 このような数字からだけで判断すると、米国の法律事務所は、必ずしも特定の限られた事務所だけが繁栄し後は廃れる、という状況ではなく、むしろ、色々な規模の事務所がなお戦国時代を争っている、いまの日本の50大事務所がそのまま人数を何十倍にして争い続けるようなイメージがあてはまるのかもしれません。

 ただ、どこもWin/Winで大きくなっている訳ではありません。私は個人的に、この「少し古い資料」で上位50として掲載されている法律事務所の中で、実際に倒産法の申請(Chapter 11)をした法律事務所を知っています。1人勝ち!の事務所はないからこそ、競争は激しさを増しているといっても良いでしょう。法律事務所は、単に大規模化しているのではなく、より複雑に専門化・分化されて競い合っているということができると思います。

米国で弁護士が100万人居る理由

 米国の現状と日本の2025年が重なるかどうかで重要なことは、いったい何故こんなに沢山弁護士が米国で必要なのかを明らかにすることです。ここは米国の法律事務所で働いてみた経験をもととした私見が混じります。

 米国での弁護士需要を旺盛にする理由の第1に、連邦制をあげることができます。上述の人数上位250事務所の一覧を見て頂いても分かるのですが、本社がNYやDCにある事務所ばかりではないんです。最大の事務所はシカゴです。LAやBay Areaに本社がある事務所もあります。つまりは、連邦制であることが法律需要に大きく影響しています。州法が、相当部分統一されているとはいえ(UCCなど)やはり違うので、各州ごとに法律家の需要がかなりある訳です。国が大きいからだけではなく、各地で法律が違うので、大きい事務所はどこも全米各地に支店を持たざるを得なくなり、結果として弁護士需要が大きくなる訳です(ちなみに米国だけではなく、一般に連邦制を採る国にはそうではない国と比べて多くの弁護士がいます)。

 第2に、1件の訴訟にかかる手間が違いすぎます。日本の民事訴訟でも、医療過誤訴訟などで証拠保全が活用され、「意図しない文書」が裁判の証拠となることはあります。しかし、「何でも洗いざらい出さねばならない」という事態にはなっていません(数年前問題になった稟議書の位置づけに関する判例も大きいと思います)。その結果、逆に「訴訟経済」という面では、1訴訟あたりにかかる弁護士の時間は米国より相対的に小さくなっています。そういう制限的な証拠開示に加え、我が国の民事訴訟法では伝聞証拠も出し放題なので、証人尋問前に、証人候補者と訴訟代理人がやりとりするといえば、陳述書を作成して裁判所に提出する位しかありません。しかし米国では、民事においても厳格な証拠法則が貫かれる結果、Trialに移行する前から、証人尋問手続類似のDeposition手続を経ることが普通です。これは、1つの訴訟での尋問の実質的な回数が増す訳ですから、日本の訴訟手続との比較では相当な手間の増大となります。加えて、Discoveryにおいては、いわゆるAttorney-client Privilege等に該当しない限り、相当広範囲で証拠開示(Discovery)しなければならないことになっており、その応答において、弁護士の労力は、日本とは比較にならないほど大きくなっています。米国で提起された訴訟の9割が和解となるのは、これらの手続で日々発生する弁護士費用(普通はタイムチャージ)が高すぎて、Trialに移行して更に多額の弁護士費用を発生させることを依頼者が嫌がるから、というのは、現地で仕事すれば十分に納得できるものでした。

 第3に、これは日本でもよく知られたことですが、米国では訴訟等の紛争性のある事件数が圧倒的に多いこと、また、紛争前に、例えば会社が意思決定をする際などに、取締役が善管注意義務(Duty of care)を果たしたという証拠を残すために、弁護士に意見書を求める機会が圧倒的に多いこと、紛争以外であっても、M&A等で弁護士の活用する機会が多いことをあげることができると思います。訴訟事件数についてもう少し詳しく見ていくと、米国では、連邦地裁の訴訟案件(調停等除く)だけで年間27万8000件(2005年)の訴訟が提起されています。日本が約56万件(2005年度)なので少ない、と思うかも知れませんが、州レベルで別途訴訟がありますので、単純比較はできません。一説には年間2200万件の訴訟が提起されているという話もあります。手元の資料では2200万件の裏付けはありませんでしたが、米国でも連邦法でしかやっていない破産事件であれば両国の比較がしやすいので比べてみますと、米国で1年間の倒産申立件数(法人・個人、清算型・再建型を問わない)は、約207万件(2005年)ですが、日本の1年間の倒産申立件数(破産、会社更生、民事再生の合計、特別清算を含まない)は、約22万4000件(2005年度)に過ぎません。少なくとも倒産に関しては、人口比(1:2.5)を考慮に入れても、3.7倍の事件があるということができそうです。

 第4に、米国では、弁護士が特別の地位となるような教育制度にあることを挙げなければなりません。つまり、一般の方は、Law Schoolに行かなければ、法律を学ぶ機会がない訳です。アメリカには「法学部」は存在しません。弁護士以外の法律職も基本的にはありません。街の本屋に行ってみてください。例え大きな本屋に行っても、おそらく法律書コーナーはないでしょう。法律で困っても、自分で解決するということはできないのです。日本とは大違いです。

   これだけ事件があり、また1件あたりに手間がかかり、法学部もなく、更に沢山法律があれば、それは弁護士も必要な筈です。

 これらの数字や実情を踏まえて、日本の2025年を考えてみましょう。

 

3 日本の2025年(1)個別論点の検討
1 法制度の変化等と法律事務所に対する弁護士需要の関係について

 現在日本は、単一の法制度を採る国であり、地方自治体に条例制定権があるとしても、非常に限られた範囲でしか条例を制定することはできず、権限そのものが限られています。勿論、一部に道州制の導入の議論があるが、地方行政権の拡大を求める論調はあっても、例えば地方独自の司法権を求める声などは聞いたことがありません。従って、仮に道州制が導入されることがあり得るとしても、それは、現在の都道府県制度を行政権(端的には予算)の観点から組み替えるレベルに留まり、例えば、会社法の設立準拠法が各道州の法律(条例)に基礎付けられるような、あるいは、各道州が道州の権限に基づき設立する裁判所や検察庁が設立されるといった、連邦制に近いような改革は行われないと思われます。

 訴訟をやりやすくする制度の1つに、消費者団体等による団体訴権の制度化があり得ますが、これは、現在でも議論がかなり活発になっており、2025年までには認められる公算が十分あると考えます。これは訴訟件数の増加につながる動きの1つといえるでしょう。

 新会社法導入に伴い、企業統治に関し一歩踏み込んだ立法上の言及(いわゆる内部統制システムの整備)がなされ、相前後して、企業内でさまざまな今までは行われていなかった法的な取り組み(例えば、内部者通報制度、個人情報保護の対策など)がなされるようになり、企業経営における一般的な企業法務のウェイトは増していると思われます。当然これは企業法務における弁護士業務の需要を増大させます。この傾向は、他国を眺めても、2025年まで続いていくと言って良いと思われます。

 M&Aなどの増大による弁護士需要の増大は近時飛躍的なものがあります。しかし、これが20年のスパンで増え続けるという保証はなく、この需要増大を弁護士需要全体の見地から過度に強調することは消極的であっても保守的すぎるということはないと思います。

 訴訟法関係では、2009年から始まる「裁判員制度」は、市民の司法参加という意味ではインパクトを与えるでしょうが、あくまで特定の刑事裁判に限られ、これをもって弁護士業務全体に強いインパクトが与えられるか、といえば、影響は限定的であると考えます。他方、民事裁判における伝聞証拠法則の変更が議論されたことはなく、むしろ、裁判の迅速化ばかりがテーマとなっていたので、米国流の相手保持の文書であっても広く提出を求めることができるような民事訴訟制度の導入は、2025年になっても起こらないと思われます。但し、より長期的な目で見れば、刑事裁判の証拠の可視化などが現在も議論されていますので、その延長線上で、遠い将来は民事訴訟の実質的な真実主義の導入もなされる可能性があると思います。

 他業種(行政書士・司法書士・弁理士・社会保険労務士・税理士)との調整ですが、これらの業種が、実際は各担当官庁からの一種の「天下り」の温床ともなっていること(税務署・特許庁で勤務すれば無試験(他の資格試験を含む)で税理士や弁理士になれる、裁判所書記官や検察事務官も一定の認定で司法書士試験を経ずに司法書士になれる、等)、現時点において調整の議論は全く大きくならないことを考慮すれば、まず2025年までに調整が実現するとは考えられません。むしろ、他の資格者に訴訟代理権を開放する方向で制度改正は進んでおり、2025年においては、税理士や弁理士に税務訴訟や特許訴訟での単独代理権が与えられることだってあり得ないとは言い切れません。簡裁代理権の司法書士への付与は、弁護士業会全体からみれば影響は小さかったですが、税務訴訟や特許訴訟で実現した場合は、既存の法律事務所に対する弁護士需要は一定のマイナスの影響を受けます。

 以上を総括すると、法律事務所に対する弁護士需要の増大そのものは相当程度期待できると思いますが、連邦制ではない点、民事訴訟システムの根幹が変わらない点を考慮すれば、それが現在の米国並にまで激増するということは、あり得ないと考えます。他の隣接法律職との調整もできない結果として、その需要がいま以上に劇的に弁護士事務所にやってくることもないでしょう。むしろ、特に小規模な業務を中心に、隣接法律職に奪われていくものも多くなるでしょう。

2 法律事務所以外での弁護士の需要について

 既に述べたとおり、米国ではLaw School卒業生の50%が法律事務所に就職するに過ぎません。逆に言えば、そこが良いかどうかは別として、日本の弁護士にはない市場が50%もある訳です。

 上記米国の分析で余り書きませんでしたが、例えば日本であれば無資格の人間でも企業法務を行うのはむしろ常識になっていますが、米国の場合、一般に企業法務のスペシャリストは弁護士資格を持つことが求められています。また、多数のLaw School卒業生が裁判所を含む官公庁に就職する事実は述べたとおりです。

 日本でも、企業法務の担い手に弁護士をという声は少しずつ増えてきています。ただ、収入面では、現在の企業法務の位置づけ(企業内における地位)が低いことも相俟って、資格手当が若干付される程度であり、文系修士号を取った学生の企業内評価が低いのと同様、弁護士としての評価も、法律事務所で勤務する弁護士ほどのものになるとは思われません(優秀な人が多いのでもっと評価して貰えたらなあ、と個人的には思うのですが)。

 行政機関における法曹需要については、今年、新司法試験合格者に対し経済産業省が修習を経ていない者であっても、採用する旨を発表し話題になりました。現在、相当数の弁護士が特任公務員として派遣されている現実を踏まえても、これから増えていくことは間違いないと思われます。

 ただ、これらの行政機関や企業での需要が、現在の米国並に増えるのか、という点については、疑問があります。第1のネックは、弁護士会費ではないかと思います。例えばNew York州では、2年間分の登録維持費用は350ドルに過ぎません。カリフォルニア州もほぼ同水準です。しかし、日本では、最初に数十万円(大阪弁護士会の場合44万円程度だったと思う)の登録費用、その後1ヶ月に約4万5000円(大阪弁護士会)の会費が必要であり、この費用を、企業はともかく官公庁が負担するとは思われないからです。会費を下げるという選択肢は、既存の弁護士との間で間違いなく摩擦を生みますし、例えば大阪弁護士会は、新会館を建てる際に、新規登録弁護士の増大を見越して費用見積をしていますし、その他の公的な事業の費用を考慮すれば、簡単に会費を下げることはできないでしょう。また、費用を企業や官公庁が負担するということになれば、その分、資格手当が厚くはならないと思われます。このネックがあるからこそ、経済産業省が、現実に弁護士登録する前の合格者に新たに声をかけたのではないか、とも思う訳です(従前の司法試験合格者で国家公務員1種試験突破者も、弁護士登録はしませんでしたし)。

 それに、既述のように米国のような連邦制ではない結果として、また、地方公務員が国家公務員から独立せずお伺いを立てながら「自治」をしている現状に鑑みれば、国家公務員での弁護士需要は増えても、地方公務員における弁護士需要はそれほど増えないのではないかと推定します。また、裁判所でのClerkとしての採用は今の裁判官制度を前提とすれば見込めません。つまり、米国では就職の2割を占めた公務員+Clerkの部分で、実際に日本で見込める部分はかなり小さい割合ではないかと思うのです。

3 その他の事情

(1)人口減少

 現在、日本の将来人口予想は出生率の低下を十分織り込めていないという批判がありますので、ここでは、2002年の予想のうち、低位で推移する場合の数字を見てみます。それによると、2025年の人口は1億1700万人がなお見込まれます。但し、2006年の労働人口(15〜64歳)との比較では、たった19年間で1400万人(16%)程度もの減少が見込まれている点注意です。労働人口の減少は、高学歴化と相俟って、経済活動を不活発にする可能性が高く、法曹界もこの荒波を受けることは間違いないと思います。

(2)経済的地位の低下と中国の台頭

 現在、日本は世界第2の経済大国、であると言われていますが(最近はこの表現を聞かなくなりましたねえ・・・)、年率10%前後の成長を続ける中国にこの地位を明け渡すのは確実であり、それは2010年前後にも起こるものだと予想する方もいます。また、既に理系の修士号以上を取得する人数で日本は中国に負けようとしており、2010年頃には倍位引き離されるそうです(上記資料による)。これらを踏まえれば、いま世界から日本へ注がれているモノとカネが、一層中国にシフトすることが予想されます。これはただちに、そのような流れに随伴する法律業務のシフトをも意味します。

 この点は、ここ米国で、Law Firmが挙って中国出身のJD・LLM生を採用しているところからも感じるところです。

(3)司法試験合格「率」の問題

 2010年頃以後、毎年3000人の「法曹」が生まれるというラインは、ここ数年、ほぼ決定事項かのように言われていましたが、日本の法科大学院(Law School)が沢山できすぎてしまった影響として、合格率が思ったほど高くならないという問題が生じてきました。初年度こそ48%の高率(カリフォルニア州とほぼ同じ)でしたが、初年度不合格者が再受験し、3年制のいわゆる「法学未習者」が参入する来年度以後は、合格率が30%前後まで下がると言われています。旧司法試験のような「何度でもとにかく受かりさえすれば良い試験」とは異なり、3回までで受からなければいけない、しかも法科大学院に2・3年通わなければ受けられないという制約がある以上は、合格率30%というのは、少し低いと考える人が多くてもおかしくはありません。その結果として、優秀な人材が法曹界に確保し続けられるのか、という疑問が生じるのは当然です。

 法曹が優秀であるからこそ、高い料金を払っても依頼しようとする顧客がいるのであって、優秀ではない法曹には高い料金を払うことはできません。他方で、そのように優秀ではない法曹が増大することにより、一部の優秀な法曹を囲い込む動きはいま以上に盛んになることが予想されます。

 

4 日本の2025年(2)個別論点を踏まえた法曹界のイメージ
 以上を踏まえた上で、私なりに、2025年の弁護士7万1000人の在り方を、独断偏見も交えた上で予想してみます。

需要と供給の関係

 7万1000人とは、現在の約3倍ですが、法曹への需要が、現在の3倍になることはないと考えます。

 既述のとおり、7万1000人という数字は、隣接法律職を含めて考えれば現在の米国並みです。しかし、米国と異なり連邦制を採用しておらず、また将来も採用しない我が国で、そのレベルまでの法曹需要の増大は全く期待できません。既述のとおり、民事訴訟のやり方がそもそも大きく違うので、訴訟1件あたりの弁護士報酬も全く異なりますが、これも大きく変化しないでしょう。訴訟件数そのものは、戦後ほぼ一貫して増加しており、米国並みにはならなくても増加するでしょうが、弁護士人数の増加に見合った急激な増加までは全く期待できません。訴訟外における法律業務についても、勿論現在の社会情勢を踏まえれば増加する筈ですが、人口減、特に労働人口の減少の影響や、日本の経済的地位の低下の影響もあり、その増加のペースは極めて緩やかなレベルに留まると思います。

 また、法律事務所以外での弁護士需要がそれ程増えないでしょう。現在の米国のように就職できる人の40%以上が法律事務所以外に、という状況は発生しないでしょう。

 現在の「弁護士なら優秀」というレベルと異なり、幸か不幸か、弁護士であっても優秀ではない層が増える結果として、現在のように(相対的に)安価でも優秀なリーガルサービスを期待すること自体は困難になると思われます。従って、優秀なリーガルサービスを提供できる一部の法律事務所は、現在よりも高い報酬を得て繁栄することができる可能性があると思われます。

 逆に、弁護士報酬の自由化、隣接法律職との競争を考えると、優秀ではない弁護士の報酬は低下するか、完全成功報酬制への移行が進むでしょう。そうすると、そういう仕事に頼らざるを得ない事務所は経営が悪化し、そういう事務所で雇用される弁護士の給与は現在より低い水準になるでしょう。

弁護士事務所の勢力図

 まず、いわゆる「トップローファーム」と呼ばれる法律事務所は、いま以上に繁栄をするでしょう。弁護士数の増大により、新規弁護士を雇いやすくなります。また、新人側としても、雇用に対する不安が今以上に大きくなる結果として、今以上に「お金」(給料)が持つ意味合いが増してくると思われますので、優秀な新人弁護士は、「トップローファーム」に抱え込まれる率が高くなると思われます。

 ここでいう「トップローファーム」が、どういう顔ぶれかは分かりません。外資系がいまよりも伸びていることは間違いないでしょう。しかし、中国の経済成長もありますので、そこでいう外資系は、必ずしも欧米系ではないかもしれません。

 もっとも大きい法律事務所は、日本人弁護士800人程度を抱えている可能性があります。しかし、連邦制である米国と異なり、もともと東京本社である法律事務所であれば、日本国内に余り支店を出す意義がありませんし(米国でも、1つの地域だけで800名も弁護士をかかえている事務所は、多分0か0に近いと思います)、あまり沢山の顧客がいればコンフリクトの問題も生じますので、1000人や2000人という単独の法律事務所は存在しないのではないかと予想します。仮にあり得るとすれば、むしろ大阪など地方に本社がある法律事務所が、幸運にも東京でも大成功をおさめる場合や、地域ごとに合併した事務所となるか、海外で大成功する事務所ではないでしょうか。いずれにせよ、連邦制ではない以上、道州制であっても、大規模事務所が東京以外で繁栄することは余り考えられないと思います。

 中小の法律事務所は、人材を確保する点に苦労するかもしれません。その結果、現在であれば、一部上場企業であっても、従前からつきあいのあった小さな法律事務所に依頼するということがありましたが、今後は、特定の得意分野(例えば知財)がある場合を除いては、クオリティが維持できず、企業法務という観点からは衰退する可能性があります。

 逆に中小の法律事務所でいまより生きていく可能性があるとすれば、団体訴権など消費者側に立つ事務所や、労働者側の事務所ではないでしょうか。経済的地位の低下(労働紛争の増加につながる)や団体訴権の法制化により、この種の事件は伸びていく余地が大きいと思われます。但し、マンパワーは必要とするものの、待遇面では伸び悩むでしょう。

 取扱い分野によっては、隣接法律職にその仕事の大半を奪われる法律事務所も増えてくるものと思われます。特に、破産や債務整理、少額の訴訟問題を取り扱う法律事務所の中には廃業に追い込まれるところも出てくるかも知れません。

 地方の事務所は、「トップローファーム」がわざわざ支店を出して来ないと思われますので、地域によっては現在とさして変わらない状況が維持できるかもしれません。しかし、優秀な人材を確保することへの困難が生じることは間違いないので、それができるかどうかが問題となるでしょう。

法科大学院卒業生のイメージ

 まず、そもそも3割程度しか司法試験に通らないのですが、初年度新司法試験や米国の現状(最上位校・・・Berkeley, Stanford, UCLA・・・は難関のカリフォルニア州司法試験(合格率約50%)でも初回受験生で90%程度の合格率を維持している)を見ていても、上位大学(合格率上位5位までの法科大学院)であれば、少なくとも3回目までの試験までに、司法試験に合格する人が8〜9割に達するのではないでしょうか。これらの人は、多くが従前通り裁判官・検察官・法律事務所勤務の弁護士という道に進むでしょう。あるいは、国家公務員の道や、極めて待遇の良い企業内弁護士を選ぶ人もいるかもしれません。

 彼らの勤務する法律事務所は、いわゆる東京の「トップローファーム」や、有力なブティック事務所、地方の超有力事務所など、比較的成功が約束されている事務所でしょう。年収も、現在と同じように、初年度から少なくても600万円、良い場合は1000万円を超えるものが約束されるでしょう。外資系を中心に1500万円を超えるような場合もあり得るかもしれません。

 ただ、「トップローファーム」に入った「エリート」の将来が本当に100%確実かといえば、そうではないでしょう。ピラミッド自体は大きくなるのに、既述のとおり、米国並みの法律需要の拡大が起こらない結果として、現在の日本・現在の米国よりも、ピラミッドの底辺層にいる弁護士(新人弁護士)がパートナー(経営者弁護士)になれる確率は低くなるでしょう。「エリート」が比較的大事にされる中位の事務所と比べると、トップローファームの内部でも、「勝ち組」と「負け組」がいま以上に鮮明に区分されることは間違いないでしょう。

 中位の法科大学院の卒業生は、先ず司法試験に通るモノと通らない者で明暗を分けるでしょう。通るものは、法律事務所などで勤務することができるでしょう。しかし、「トップローファーム」で勤務することは一般には難しく、投資に見合う収入を得られる地位に就けるかどうかは微妙です。おそらく、初年度年収は現在の貨幣価値で400万円程度に落ち着くでしょう。他方不合格者は悲惨でしょう。ただでさえ文系大学院者に対する視線は厳しいのに、「法科大学院に行ったのに合格しなかった」というレッテルが貼られる訳です。この救済策は、おそらく隣接法律職と公務員ということになるでしょう。司法書士試験や行政書士試験、税理士試験等、あるいは、公務員試験が、このような人のたまり場になることは確実です。しかし、現在でもこれらの資格を取得しても必ず働けるという保証はなく(特に行政書士は厳しい)、公務員は削減の方向にあり、本当にどうやって生きていくのか、悩む日々を送るでしょう。従前であれば、例えば塾の先生といった道があったかもしれませんが、少子化が追い打ちをかけます。

 下位の法科大学院の卒業生は、司法試験に受からない者も悲惨ですが、受かった者も悲惨です。上述のような7万1000人という弁護士人数と需要の関係からすれば、また合格者の質的なばらつきから、さらには中小の事務所の経営難から、彼らを採用する法律事務所は殆どないでしょう。独立するにも、地域によりますが月に数万円以上必要となる弁護士会費(別途数十万円の登録費用)がネックとなり、せっかく合格したのに登録すらできないという人も出るでしょう(その結果、単純な合格者数を基礎とした計算で算定された2025年に弁護士が7万1000人という予想は下方に修正されるかもしれません)。親が比較的裕福であれば、親の支援を仰ぎながら、自分で法律事務所を立ち上げるというスタイルが一般的になるかもしれません。その中には、営業力があり、あるいは既存の法律事務所が提供しないような「ニッチ分野」で成功する事務所も出てくるでしょうが、全てではないでしょう。ただ、上述のように、東京以外での独立であれば、比較的成功の可能性が残されているかもしれません。あとは、あまり待遇の良くない企業内弁護士としての選択が多くなるかもしれません。

 ところで、何をもって「上位」「下位」が決まるのでしょうか。1つの指標は、勿論司法試験合格「率」でしょう。合格率が低ければ学生は集まらないし、集まった学生の質が低いと見なされるでしょうから。ただ、これだけでは決まらないでしょう。逆説的ですが、全ての合格者が弁護士として稼働できない可能性があるとなれば、多数の法律事務所と良好な関係にある法科大学院の評価が高まるのではないでしょうか。また、法律事務所側も、優秀な人材確保のため、法科大学院とのつながりを求めるでしょう。米国では、上位の法律事務所が、法科大学院に多額の寄附をしていますが、日本で寄附という形になるかどうかは別として、お互いが優秀な人材とレピュテーションを確保すべく、法科大学院と法律事務所の繋がりは徐々に深くなっていくでしょう。

 ・・・このような状況となる結果、上位法科大学院は、人気も高まり、米国のように一層高い授業料を徴収することができるようになり、下位法科大学院は淘汰され廃校されるでしょう。2025年時点では、現在の法科大学院のうち、最低数校、多分二桁の学校が廃校となっている筈です。

弁護士会

 もしも、新人弁護士のたまり場となるような弁護士会があるとすれば、そこは、既存の弁護士との間で、弁護士会費が高すぎるという紛争を生じさせ、中には、人数を背景に、年輩vs若手で会長選挙を争い、若手側が勝利し、一気に今までとは全く異なる弁護士会執行部を築き上げるようなところが出てくるかもしれません。このような動きを警戒し、既存の弁護士たちは、弁護士会費を逆に上げる方向で動くかも知れません。新人が入って来れない会費にすることで、自分たちの地域での競争を抑制しようとするのです。会費の中には日弁連としての会費もありますので、日弁連が予防的に様々な名目で漸次会費を上げてくることも考えられます。

5 弁護士として、法律事務所として生き抜いていくために
 弁護士は3倍も増えるが全体の我が国での需要はそれほど増えない、という中で、2025年の弁護士は、法律事務所は、いかに生き残れば良いのでしょうか。

弁護士として、法律事務所として

 第1には、初志を思い出すことではないでしょうか。

 そもそも我々は、この資格が一番難しいからとか、地位があるから目指した訳ではなくて、収入に関係なくやり甲斐があると感じているからなるものであって、地位がなくなり、資格自体がペーパーになろうと、なおそのやり甲斐を追及するという姿勢を失わないことが大事だと思います。

 アメリカではもはや、弁護士は政治家よりも尊敬されない職業だそうです(車のセールスパーソンの次に評判が低いらしいです)。我が国の弁護士は数が増えることで、地位の高さや一般的な高収入は失うでしょうが、引き続き尊敬を集めるだけの高い志を維持することが必要でしょう。

 第2には、限られたパイの中で生きていける、特筆した能力をしっかり身につけることでしょう。営業力か、専門性か、何かしらのものが必要となるでしょう。

 第3には、我が国でのパイが限られているなら、米国や中国といった周辺諸国で顧客を獲得できるような戦略が求められるでしょう。トヨタのように、むしろ売上の大半は海外から、ということが可能な法律事務所を、我が国の資本でも作り上げたいものです。

 少し本筋ではありませんが、パイの拡大という意味では、我が国の法科大学院が、米国のロースクールのような留学の受け皿になることも重要です。現在九州大学など一部の大学には、そのような留学生向けの法学修士(LLM)制度がありますが、まだ限定的です。法科大学院は、日本の法曹の世界進出のためにも、海外の法曹を教育することについても、是非ともチャレンジして頂きたいものです。また、タイ国のように、海外LLMに2年間学ぶことが、自国で裁判官をするのに必要な国もあり、弁護士の高学歴化と相俟って、例えば米国LLM1年を経過した後の、2年目の受け皿となる大学院はそれなりに需要があると思われます。日本版ジョージタウン/ジョージワシントンのような法科大学院が現れることを強く期待します。

政策的には

 これらは弁護士・法律事務所の自助努力ですが、私なりに、法曹界の活性化のために、政治的に求めることがあるとすれば、次のことがあげられます。

 第1には、徹底した地方分権です。地方自治体が、もっと弁護士を必要とするような実質的な立法権限を身につけるような、連邦制に近いような道州制の導入は、地方そのものを特色あるものにするだけではなく、法曹界にも、新しい需要を生み出すことは間違いありません。これはまさに地方も、法曹界全体もWin-Winとなる必要な政策です。デラウェラ州を見て下さい。会社法で成功した小さな州。あんな地方が日本にあったら素晴らしいではないですか。その象徴として、国会や行政官庁の東京からの移転ではなくて、最高裁判所の地方移転というのも、良いかも知れません(例えばドイツでは、連邦最高裁判所がカッセルにあります)。私個人は、最高裁を、学問の府である京都に移転することを提案します。地方分権と併せて実施すれば、国会等の首都機能移転よりは低予算で効果のある事業になると思います。

 第2には、中国の法曹分野での改革・開放を一層強く求めていくことがあげられます。中華人民共和国では、現在実施されている司法試験について、国籍要件を課しています。これは、我が国のみならず、他国の弁護士が中国で活動する上で、一定の足かせになっています。また、実体法・手続法が整備されたとはいえ、行政機関や党による足かせが依然色濃く残っているのも事実です。これらを撤廃し、いま以上に日本人弁護士が中国でも活躍できる場があれば(現在でも様々な規制をすり抜ける形で日本人弁護士が多数活躍していますが)、より広い範囲で堂々と市場を開拓できるでしょう。

 第3は、現在の分かりにくい隣接法律職を整理し、可能なら広い意味での法曹一元を実現することです。天下りで得られる資格をなくすかわりに、一定の資格職は、一定の比較的容易な試験で弁護士に「昇格」できることとして整理統合するなどが考えられます。その結果、2025年の弁護士は7万1000人より相当多くなるでしょうが、全てを弁護士とすることで、結果として弁護士の専門職としての地位が高まり、需要の掘り起こしになると思います。

 第4に、「3000人」の固定化は絶対にやめることです。国の人口が減り、地位も下がるなら、一時的に法曹人口を増大させるために年間3000人の法曹誕生が必要だったとしても、その後もそうであるという保証は全くなく、また私が思う限りは、これでは需要と供給のバランスが取れません。それが既得権の温存のために必要だというのではなく、それだと優秀な人材が法曹界を目指さないのではないか、その点に危機感を覚えます(アメリカを見て下さい。ここは弁護士というだけでは全く信用できません。事務所内ではそんなことは感じないのですが、法廷に行くたびに変な弁護士を目にし、思うことです。逆に、私が、大した弁護士でもないのに、「日本の弁護士」というだけで、米国の知日派からはえらく手厚くもてなされていることは、感謝すると同時に、将来の日本の弁護士からもしも「優秀」というレピュテーションを控除してしまう事態になったら・・・と恐れます。)。どうしても3000人を維持するなら、逆に法曹需要が拡大し、しかも世の中がハッピーになるような改革をして欲しいものです。特に徹底した地方自治は、個人的には強く求めたいものです。

まとめ

 いずれにしても、厳しい法曹社会を生き抜くには、現役の法曹も、これらの法曹も、高い志と、より高い能力が求められるのは確実でしょう。しかし逆に、生き抜く価値のある世界になるとも言えます。誰でも弁護士なら「偉い」時代の終わりを歓迎し、力強く生きて行かねばならないでしょう。そして弁護士がもっと努力しなければ、多くの弁護士にとって非常に悲惨な20年後が待っているかもしれません。

 ・・・感じていることに少し数字を貼り付けてそのまま吐き出した乱文かもしれませんが、ここまでお読み下さった方、ありがとうございました。。。

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