出会い系サイト規制法の概要について

第1 はじめに
 本日国会において成立した標記の法律の概要について説明し,若干の問題点を述べることとする。

 なお,本法については,警察庁の方から,施行前にガイドラインが提示される見込みである。拙稿が,このガイドライン等にも影響を与え,法解釈の一助になるのであれば幸いである。また,できるだけ具体的に記載したので,議論の一助となることを願う。

2003年6月6日
弁護士  藤 本 一 郎

(2007年4月1日一部改変)

第2 概要
1 本法は,未成年者の出逢い系サイトを通じた売買春その他性的犯罪が多発している現状に鑑み,出逢い系サイトでのそのような勧誘を規制して未成年者を保護することを目的とする(第1条参照)。なお,その背景事情に関する犯罪データや警察庁の行ったアンケート等は,警察庁HPを参照のこと。

2 本法は5章と附則から成り,簡単に言えば,「インターネット異性紹介事業者」が,@未成年者(法律上は「児童」(18歳未満)と定義されている)が自分の「出逢い系サイト」の利用を行ってはならない旨の明記を行うこと(7条),A「出逢い系サイト」に「書込み」をする際などに,未成年者ではないことを確認せねばならないこと(8条),B何人も,「出逢い系サイト」で未成年者を対象とする援助交際等を行うような掲示を行ってはならないこと(6条),の3点を規制した法律である。

 なお,上記@Aの違反については,公安委員会からの是正命令(10条)に違反した時に6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金,Bの違反については,100万円以下の罰金(11条)となっている(すなわち,未成年者も罰金処罰の対象たり得る)。

第3 問題の所在:2条2号について
1 本法は,児童を刑罰の対象としている点や,公安委員会に広く権限が認められているため,立法目的外の情報収集をするおそれがあるのではないか,また,通信傍受法同様,検閲に当たる恐れがあるのではないか,という点が問題とされている。

 しかし,本稿では,規制の対象となる「インターネット異性紹介事業」(第2条)とは何か,を最大の問題として検討したい。すなわち,そもそも,本法の守備範囲はどこなのか,ということを,本法の立法趣旨等に鑑みて,具体的に検討してみたい。

2 まず2条2号を見ると,「インターネット異性紹介事業」について次のように定義する(@A・・・は当職が付したものである)。

『@異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ,Aその異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し,かつ,B当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下同じ。)を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供するC事業』

 すなわち,@からCの全てを充足するサイトの運営,ということになるが,次の点に注意を要する。

(1) まず,@「(a)面識のない(b)異性との交際」について言及する。
 (a)「面識」とは,一般には,顔を見知っている,という意味である。従って,リアル世界の知人友人関係に基礎を置くようなリアル者同士が通常入力すると思われるような掲示板等のサービスは,本法の規制外と解する。リアル世界に存在するクラブ・サークル等を基礎とする電子掲示板は,通常,面識のある者同士が投稿すると思われるので,規制対象ではない。

 (b)「異性交際」とは,本法第6条の定め(児童に係る勧誘の規制)から逆に検討すると,有償・無償を問わない「性交等」を直接の目的とする交際である。つまり,純粋な「メルトモ募集」「恋人募集」「結婚相手募集」サイトは,本法の規制対象外である。「不倫相手募集」「援助交際相手募集」「セフレ募集」を意図するサイトが規制対象である。

 但し,国会討論においては,「恋人が欲しいなとか,一緒に遊んだり語ったりする相手が欲しい,こういうのはやはり面識のない異性交際を希望する者か」との質問に対し,瀬川政府参考人が「該当する」と回答している。しかし,未成年者が,異性と語り合うことや出会うことの全てを規制する,かかる政府委員の解釈は,法の目的を超えており,不当である。

 なお,上記政府委員の解釈によれば,いわゆる「メルトモ募集」「恋愛募集」サイトは全て@の要件を満たすことになる。不当な規制と思われるが、インターネット上でそのようなサイトを運営する者は、かかる政府委員解釈を前提としてサイトを運営すべきであろう。

(2) 第2に,ネット世界においてA「インターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達」するとはどのような種類のコンテンツを言うのか。

 例えば,(a)いわゆる掲示板は全て該当するようであるが,会員制(会員以外は見えない)だったらどうなのか,(b)掲示板ではなく,チャットだったらどうなのか,メーリングリストやメルマガに情報が掲載されるという形態だったらどうか。

 この点,(a)公衆とは,不特定かつ多数を言うが,交際情報の登録・閲覧の役務がいずれも会員にのみ対し提供され,かつ,会員に対し(形式的にIDとPASSWORDのみ設定されるというに留まらず,)所属する会が一定の規約の合意のもとに組織化され,会員も,少数か,または,相当な個人情報が登録される形で単なる不特定多数人の集まりではなく特定の個性の集まりであると言えるような場合は,「公衆が閲覧することができる状態に置いた」とはいえず,この種の掲示板であれば,本法の規制の対象とはならないと解する余地がある。

 すなわち,上述@の点において,政府委員解釈に従い,いわゆる「出会い系サイト」全体(「メルトモ募集」も)が「異性交際」サイトであると解釈するとしても,実質的な会員制(特定または少数)の場合であれば,本法規制対象外と言い得る。

 但し,特に「特定」性がどこまで備われば認められるかは,「面識がない」だけに争いとなりうると思われる。私は,一般の純粋な出会いサイトは,本来,@の要件(異性交際,の役務提供ではない)で規制対象から外すべきであって,特定性という点では,たとえ会員制であっても,厳しい解釈になるのが自然であると思う。要するに、サークル活動など、現実の面識を前提とするサイトではない場合であれば、「特定」とは言えないということである。近時のミクシー(Mixi)等は、会員制を謳い文句にしているが、明らかに「不特定」の者が参加しており、言うまでもなく「多数」が参加しているから、「公衆」性を充足してしまう。

 次に,(b)掲示板ではなくチャットやメーリングリストだった場合については,国会でも議論となり,形式的には,チャットやメーリングリストについては,規制の対象外との答弁であった。

 その根拠としては,チャットについては,サーバー等にデータが固定化されず,公衆が閲覧できる状態に「置いて」いない,というものであった。メーリングリストやメルマガについては,Bの要件である,相互の連絡可能な連絡先が通常付されていないというのが理由のようであった(なお,Bとの関係は後述するので,ここではメーリングリスト等の回答を留保する)。

 確かに,チャット機能単独であればその通りかもしれない。しかし,例えば,最大のチャットサイトである「YAHOO!チャット」は,掲示板(個人の記載した「プロフィール」が会員であれば誰でも閲覧できるようになっている。なおYAHOO!チャットの会員が特定性を備えるかどうかは議論のあるところである)と組み合わせて存在している。現在の有力なチャットサイトは,いずれもAのうち,「閲覧することができる状態に置いた」の要件は充足すると思われる(チャット参加者にマウスのカーソルを持っていくと,個人情報の画面となり,そこに面識のない異性との交際の申込みが記載されるような場合)。

 もっとも,上述のように,会員制システムの内容によっては,「公衆に」の要件を充足しない場合もあり得る。また,私の解釈によれば,いわゆる「アダルトチャット」以外は,仮に一般的な意味での交際を目的とする「出会い」ルーム等は,@の要件(面識のない異性との交際)を充足しない。

 なお,政府委員の解釈による場合は,「YAHOO!チャット」の場合,チャットの情報自体はサーバーにずっと固定されないので直接の規制対象ではないが,掲示板機能の部分と一体となることによって本法の規制の範疇に含まれることになる可能性があると思料する。

 よくよく考えると,Yahoo!チャットの場合,あくまでアダルトチャットや出会いチャットは全体の中のごく一部(但し人気がある)であり,このサイトは,異性交渉に利用できなくはないが,全体的に観察すれば,「出会い系」としての色彩は薄まる。このような場合に,本法の規制の対象となるのか,法律からは不明確きわまりないと思われる。

(3) 第3に,B「相互に連絡することができるようにする役務の提供」については、既に述べたメーリングリストやメールマガジンが問題となるが,チャットの問題と同様,これ単独であれば,相互連絡は無理であるので対象外だが,メーリングリストやメールマガジンに相互に連絡可能な手段(メール送信のためのフォームページへのリンク等が付されている場合)は,Bに該当する。

(4) 最後に,C「事業」性であるが,これは,争いなく,反復継続性があれば「事業」と認められると解釈されると思われるので,有料サイト・無料サイトを問わず,規制の対象となる。また,いわゆるプロバイダー規制法同様,プロバイダーでなくても,サイト等を運営をしていれば,規制対象となる。すなわち,一個人が,レンタルサーバーでちょっとした掲示板を開く場合であっても,@ABの条件に見合う掲示板であれば,規制の対象となる。

3 以上から具体的に,現在有力とされる「出会い系」サイトの規制対象可能性を検討してみる。

 既に述べたYahoo!チャットは,部分的に観察すれば,「アダルト」ルーム等が規制対象になりうる。しかし,全体的に観察するとそうでもないと思われ,果たしてどうなるのか,不明である。

 いま人気の「ミクシー」(Mixi)であるが、いかに会員制・かつ推薦がなければ会員になれないというシステムであっても、前述のとおり、Aの要件は明らかに充足する。BCも充足する。@異性交際のためのサイトか、という点で、私の解釈では,@の要件を満たさないことになるが、しかし政府委員解釈では@の要件を十分満たす。かかる理由から、ミクシー運営側も、会員を18歳以上に限っているのである。

 しかし、ミクシーのようなSocial Networkの有用性に鑑みれば、かかる規制は、過度に広範だったのではないか、再検討をしても良いのではなかろうか。

第4 最後に
 若干言葉足らずであるが,規制の対象の一方の主体である「インターネット異性紹介事業」の範囲が曖昧であること,仮にこれを広く解釈すれば,未成年者の表現の自由が,その本来の目的である保護に必要な範囲を超えて過度に制限されることを,見てきた。私は,上述の「Yahoo!チャット」や,「Mixi」が,本法で未成年者の立ち入りを禁止せねばならない程に悪質なホームページであるとは全く思わない。警察庁のアンケート(上述)でも,問題となったのは,迷惑メールで勧誘を行ってくる携帯電話の怪しげな出会い系サイトである(性犯罪の実に97.5%がそのような場面に限定されている)。

 2条2号の解釈を字義通りとすれば,いかに未成年者が保護の対象であるとしても,その表現の自由が保護の必要以上に制限されることは明らかである。本法成立後は,そのような精神で本法を解釈するようにしていかねばならないと思料するところである。

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