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これも難しいので、頭をクリアーにすべく、お茶か紅茶でも飲みながら、ゆっくり読んで下さい。
既にQ1でも見たとおり、場合によっては補償金を払う必要があるとはいえ、原則的にCDの複製は、私的利用のためであれば違法ではありません。しかし、同じようにDVDを複製する場合は、ちょっと違う、と聞いたことがある人もいるかもしれません。何がどう違うのでしょうか。実は、いま市販されているDVDには、通常、一定の(広義の)コピープロテクト技術が使われていることと関係があります。コピープロテクト技術によって、色々考えなければいけない論点は増えるのですが、結論としては、DVDの複製は、「私的利用のための複製」であっても違法じゃない場合が多いが、違法となる場合もある、ということになります。
「私的利用のための複製」であっても、違法となる例外がある!
まず、著作権法30条1項は、「私的利用のための複製」を合法化する効果があることについては既に何度か触れてきました。その1項には実は例外があります(30条1項2号)。
『著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
2 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合』
これ、やたら難しいですが、(a)「技術的保護手段」に用いられている信号の除去・改変で、(b)その結果、その技術的保護手段が所期したような防止行為が発生し・抑止結果に障害が発生するような場合、「私的利用のための複製」であっても、やっぱり違法になってしまう、ということです。
そして、DVDは、その著作物を保護するために、(広義の)コピープロテクト技術が使われていることが広く知られています。だから、これを回避して「複製」しても、30条1項2号によって、「私的利用のための複製」であったとしても例外的にDVDのコピーは違法(複製権侵害)、と考える人もいるかもしれません。
全ての(広義の)コピー防止技術が著作権法上、回避したら違法となる「技術的保護手段」に該当する訳ではない!
ところで、「技術的保護手段」とは、
『電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式によるものをいう。』(著作2条1項20号)
つまり、「技術的保護手段」に該当するには、(1)著作権侵害防止・抑止の手段で、(2)著作物等の利用に際し、(3)機器が特定の反応をする信号を記録しまたは送信する方式、を言います。言い換えれば、(広義の)コピー防止技術なら何でも「技術的保護手段」になるのではなく、(1)著作権侵害の防止(例えば複製権・公衆送信権・譲渡権)とは直接関係のない著作物の利用そのものを妨げるような行為は、「技術的保護手段」にはならない、と考えられています。
言い換えると、広義のコピープロテクト技術には著作権法上2種類に分類できて、複製や公衆送信を直接防止する「コピーコントロール」は著作権法上の「技術的保護手段」に該当するが、単純にそのDVDを見れなくする、スクランブルをかけるといった「アクセスコントロール」は、著作権法上の「技術的保護手段」に該当しない、と言うことができるといえます。
DVD-Video規格で使われているCSSという技術は「技術的保護手段」ではない⇒これを回避しても著作権法違反ではない可能性が高い
では、どのような場合が「アクセスコントロール」となるのでしょうか。争いなく言われる例は、WOWOWの放送にあるような「スクランブル」です。WOWOWの放送は、無契約ではユーザーは「スクランブル」のかかったぐじゃぐじゃな放送しか見ることができません。この結果、著作物の複製もできなくはなるのですが、それ以前の問題として、著作物を見ることがそもそもできなくなる訳です。
実は、DVDのコピー防止技術の1つに、この「アクセスコントロール」が使われています。CSS(Content Scramble System)と呼ばれる技術でして、DVD-Videoと呼ばれる規格で使われている暗号化技術の1つです。
DVDソフトを作成する際、コンテンツデータをAという電子鍵(タイトル鍵)で暗号化します。そして、コンテンツデータを復号するのに必要なタイトル鍵(A)はDVDの中に保存されるのですが、そのタイトル鍵(A)も別途暗号化します(この暗号化する電子鍵Bをディスク鍵といいます)。更にこのディスク鍵をCという電子鍵(マスター鍵)で暗号化します。
DVDプレイヤーがDVDソフトを再生する時、CSS技術に対応したDVDプレイヤーであれば、プレイヤー自身が復号化のためのマスター鍵(C)を保有しているので、順番にディスク鍵(B)、タイトル鍵(A)、コンテンツと復号することができます。ところが、(i)マスター鍵を持っていないDVDプレイヤーだと、結局暗号化された中身しか見えないので、再生できません(スクランブルになります)。また、(ii)内容が暗号化されているためにDVDをコピーすることもできない、という理屈です。
だから、広い意味ではコピー防止技術といえる(⇒(ii))のですが、本質的には、マスター鍵を持つDVDプレイヤーのみに再生を許す技術(⇒(i))です。ですから、この技術は、コピー防止のため、というよりは、適切な暗号鍵(マスター鍵)を持っていないと見られない、という「アクセスコントロール」の方に該当すると言って良いでしょう(文化庁も同じ見解)。
なお、業界団体は、メインの目的はコピー防止であり(コピーしたDVDソフトは、技術未対応のDVDプレイヤーでは見られないという点ではコピーしていないDVDソフトと一緒だが、この技術のために、技術対応のDVDプレイヤーではコピーしたDVDソフトを見ることができなくなる)、「技術的保護手段」に該当すると反論しています。
長くなりましたが、結論的にDVDのコピー防止技術の1つであるCSSという暗号方式を「破って」も、著作権法でいう「技術的保護手段」には該当しないために、著作権法違反にはならない(私的利用のための複製、に該当する)ということになる可能性が高い、と言えます。
CSS以外の主要コピー防止技術は著作権法上の「技術的保護手段」を含む
しかし、現在ではこのCSSという技術はマスター鍵の流出により、DVDソフトのコピー防止技術の主流ではなくなっています。他にも、有力なところで、(i)CGMS(Copy Generation Management System)と呼ばれるもの(マクロビジョンと呼ばれるものもその亜流)、(ii)CPRM(Content Protection for Recordable Media)と呼ばれるもの、(iii)CPPM(Content Protection for Prerecorded Media)と呼ばれるものなどがあります。
このうち、(i)CGMSは、データの暗号化ではなく、データにコピー管理情報(コピー不可、1回のみコピー可、コピー自由)を載せて、レコーダー側がその管理情報の内容に応じて、再生をしないということを生じさせるものであり、まさに(1)複製を防止する手段そのもの(コピーしていないDVDはどんなDVDプレイヤーでも見られるが、コピーしてしまったDVDは技術に対応したDVDプレイヤーでは見られない)である「コピーコントロール」であり、著作権法2条1項20号にいう「技術的保護手段」に該当します。
(ii)CPRMは、CSSの暗号化を基本的に受け継ぎつつも強化した上で、コピー管理情報を載せる技術です。DVD-RAMやDVD-RWなどに使われています。暗号化の部分では「アクセスコントロール」ですが、少なくともコピー管理情報の部分では、「コピーコントロール」ということができるでしょう。従って、少なくとも「コピーコントロール」の部分はやはり「技術的保護手段」に該当します。
CPRMが記録可能なメディアのためのものでしたが、(iii)CPPMは、再生専用メディアに使われている技術です。やはりCSSの暗号化を基本的に受け継ぎつつも強化されています。またCPRM同様にコピー管理情報を載せています。暗号化の部分だけでいえば「アクセスコントロール」ですが、少なくともコピー管理情報の部分では「コピーコントロール」といえます。従って、少なくとも「コピーコントロール」の部分はやはり「技術的保護手段」に該当します。
このように、現在の主要なDVDコピー防止技術は、何らかの形で、少なくとも部分的には「コピーコントロール」を含むものですから、これを回避することで「可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製」は著作権法30条1項2号に触れ、著作権法上、著作権者の複製権の侵害となります。
しかし複製が著作権法上違法ではない場合があり得る
ただここで1つのポイントは、「可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製」の解釈です。
DVDをパソコンのリッピングソフトを使って複製する場合を考えて下さい。これは一般には、HDDに一旦保存⇒DVDメディア(DVD-RAMなど)という2段階を経て複製されます。
普通にパソコンのHDDにDVDの内容を保存するのは成功するのに、DVDメディアには焼けないということがあるかもしれません。これは、コピーコントロールが、パソコンにリッピングする場合には働いていない証拠です(全てのコピーコントロールでそうなるという訳ではありません。パソコンにもデータ保存できない場合があるかもしれません)。そのような場合に、リッピング中(パソコンにデータ保存中)にコピーコントロールを外すということができたらどうなるでしょうか?
これは、別に コピーコントロールを外さなくてもできた複製、ということになるので、そのような複製は、「技術的保護手段」を回避しているけど、30条1項2号にいう例外に該当しないという可能性があります。その場合、最初の複製時にコピーコントロールが外された結果としてHDD⇒DVDメディアへの複製ができるようになったとしても、30条1項2号にいう例外に該当しないと思われます。
逆にそもそもHDDへもできないリッピングのコピーコントロールをHDDへの複製の段階で外したということになれば、30条1項2号にいう例外に該当し複製権侵害になると思われます。
従って、全ての「技術的保護手段」の回避が著作権法30条1項2号に該当する「例外」として複製権侵害となる訳ではない、という結論になり得ます。
不正競争防止法は「アクセスコントロール」の妨害も違法とするが・・・
他方、不正競争防止法は、「技術的制限手段」(「保護手段」ではない)を回避する装置・プログラムの譲渡・引渡・展示・輸出・輸入・電子通信回線を通じて提供する行為を禁止しています(不正競争防止法2条1項10号、11号)。
こちらは、「アクセスコントロール」も含む(11号)のですが、単にそのような手段を利用することや、譲渡を受けることは規制の対象外であり、上述の複製行為のうち、著作権法上違法とはならないものについては、不正競争防止法上も違法にはならないということになります。
なお、不正競争防止法上禁止される「技術的制限手段」は、「可能とする機能のみを有する装置」または「プログラム」ですので、使い方によってはアクセスコントロールを回避できる、というレベルのものであれば、そもそも2条1項11号に触れないことも付言しておきます。
まとめ(可能性が高い結論)
まだまだややこしいと思いますが、一応まとめますと、
「コピーコントロール」 ⇒著作権法上「技術的保護手段」、不正競争防止法上「技術的制限手段」
「アクセスコントロール」⇒不正競争防止法「技術的制限手段」のみ
DVDの複製
・CSSを回避⇒「技術的保護手段」ではないので著作権法上違法ではない
・コピー管理情報の回避⇒パソコンへのリッピングが(特別なソフトを使わなくても)通常可能な状態である場合に、パソコンでコピー管理情報を解除してリッピングソフトを使ってDVDメディアに複製するのは違法ではないが、パソコンへのリッピングができない状態になっている場合に、コピー管理情報を解除してリッピングソフトを使ってDVDメディアに複製するのは違法。
但し、特にコピー管理情報を解除することについては、争いもあり得ることを十便留意して下さい。
ちなみにアメリカでは・・・
以上は日本法上の見解になります。アメリカでは、アクセスコントロールの回避も、コピーコントロールの回避も原則として違法となっています(米国連邦著作権法第1201条、この部分を良く「DMCA法(Digital Millennium Copyright Act)」と呼びます。著作権法上の中に規定がありますが、米国ではこれを著作権者の権利というよりは、別の規制であると捉えている方が主流だと思います。)。
ちなみに、長いですが、連邦著作権法1201条に興味がある方はこちらをご覧ください。
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