日本人と中国人の結婚・離婚

はじめに
2007年11月16日
藤 本 一 郎




 中華人民共和国と日本の関係は歴史的にも非常に深く、近年中国の発展によって更に深くなってきたといえよう。そういう中で、日本人と中国人が結婚する例も増えているのではないかと思う。本稿では、日本人と中国人が結婚する場合に問題となるいくつかの問題について、そしてその中の1つとして、離婚の問題も含めて、論じてみたい。

 なお、引用した中国の法律の翻訳は全て私の独断によるものであり、一般的な日本語訳と異なる場合もあることを付言しておく。

1 問題の所在
 沢山の問題があると思うが、取り急ぎ次のような問題を考えてみたい。

【問題1】
 日本人と中国人が結婚する場合、先に日本で婚姻届を提出する場合と、先に中国で婚姻届を提出する場合で、何か違いがあるか?あとからもう一方の国で婚姻届を提出する場合、受理されないという危険があるか?

【問題2】
 日本人と中国人が離婚訴訟する場合に、
(1)管轄はどちらの国の裁判所にあるか? (2)それぞれの国で、いずれの国の法律を適用することになるのか? (3)仮に二重訴訟があり得る場合に、一方で先に出た判決は他方に影響するか? (4)一方では離婚が成立したが他方では離婚が成立しないという問題が生じるか?

2 問題1 日本での結婚、中国での結婚
両国の婚姻要件の相違 

 そもそも、婚姻は国によって制度が異なる。そこで日中の制度の相違を概観したい。

 日本では、男性18歳、女性16歳にならなければ結婚することができない(日本民法731条)。直系血族、3親等以内の傍系血族、直系姻族との間では結婚できない(同734、5条)。重婚は禁止される(同732条)。未成年者が婚姻する場合は父母一方の同意が必要である(同737条)。[婚姻の実質的要件]
 婚姻届の提出は、婚姻の効力発生要件であり(同739条1項)、これは当事者双方と成年2名の証人が署名した書面の届出で行われる(同739条2項)。なお、届出に際し、当事者自らが出向く必要がない。[婚姻の形式的要件]
 婚姻成立後は、夫婦同一の氏を名乗ることとなる(戸籍法74条、なお6条)。

 中国では、男性22歳、女性20歳にならなければ結婚することができない(中国婚姻法6条)。直系血族、3代以内の傍系血族、医学上結婚してはいけないと思われる病気に罹患している場合は結婚できない(同7条)。重婚は禁止される(同3条2項)。[婚姻の実質的要件]
 婚姻は婚姻登記機関に男女が自ら出向き登記をし、結婚証明書をその機関が発行し、これを男女が受け取ることで成立する(同7条)。
 婚姻成立後も、男女はそれぞれ自己の姓を名乗る(夫婦別姓、同14条)。

では、日本人と中国人が結婚する場合ですが・・・(日本法の立場から)

 上述の実質的要件の相違から、例えば、日本人18歳の男性と、中国人16歳の女性が結婚できるのか?といった疑問が生じてくるだろう。「形式的な」答えから言えばノーである。何故なら、日本法上で結婚の成立を認めるには、その実質的要件について「各当事者につき、その本国法」に従わなければならないからである(法の適用に関する通則法24条1項)。つまり、日本法の立場からは、日本人男性は日本民法の実質的要件を、中国人女性は中国婚姻法の実質的要件を満たさなければならない。
 ところが、である。実は、中国の大使館・領事館は、海外での婚姻については、中国国内法の年齢制限ではなく、当地での法律に基づき、「婚姻要件具備証明書」を発行することがあるようである(昭和57年9月17日法務省民二5700通達)。このような証明書において、男性22歳、女性20歳に達していないにもかかわらず、婚姻要件が具備されていると証明される場合、日本において結婚して差し支えない。

 また、日本法の立場からは、その婚姻の方式については、婚姻挙行地の法、または当事者のいずれかの本国法(但し挙行地が日本の場合であれば日本法に限る)に従う(法の適用に関する通則法24条2項3項)。つまり、ハワイで2人が結婚するのであれば、ハワイ州法の規定に則った結婚の方式でも、日本法に則った方式でも、中国法に則った方式でも、結婚は日本法上も成立するが、日本で結婚するのであれば、日本法に則った方式でのみ結婚が成立する。

 日本法の立場からすると、創設的婚姻届と、報告的婚姻届がある。ざっくり言えば、最初に日本で婚姻届を出す場合であれば、創設的婚姻届であり、他国で既に婚姻が成立している場合に、それを報告する趣旨として届け出する場合が、報告的婚姻届である。日本人は、他国で既に婚姻している場合であっても、かかる報告的婚姻届を、他国の婚姻成立から3ヶ月以内に、現地大使館・領事館または本籍地の市町村長宛に行わなければならない(戸籍法41条)。

 日本人と中国人との間における日本の市町村または日本の大使館・領事館宛の創設的婚姻届の提出に添付すべき書類は、日本人について戸籍謄本、中国人については、婚姻要件具備証明書(在日本中国大使館・領事館で発行可能)である。
 他方、日本人と中国人との間における日本の市町村または日本の大使館・領事官宛の報告的婚姻届の提出に添付すべき書類は、中国における結婚証明書の謄本(公証処発行のもの)、日本人の戸籍謄本、中国人の国籍証明書、である。なお、報告的婚姻届の場合は証人は不要であることは既に述べた。当然、結婚日は、この届出日ではなく、従前なされた他国(中国)での結婚登記日である。

日本人と中国人が結婚する場合(中国法の立場から)

 では、中国法の立場からはどうか。
 第1に、中国の国際私法を含む民法通則147条によれば、婚姻の準拠法は婚姻成立地法によるということである。

中国 民法通則147条
中華人民共和国の公民と外国人が結婚する時は、結婚地の法律を適用し、離婚は離婚案件を受理する裁判所所在地の法律を適用する。

 従って、中国で結婚する場合は中国法により、日本で結婚する場合は日本法により結婚の要件が審査されることになる。

 ところで、日本において日本法の方式で婚姻が成立する場合(日本法上も、中国法上も、日本人と中国人が日本で婚姻する場合は、日本法による以外適法な手段はない。在日本中国領事館も、日本では日本人と中国人の婚姻登記を受け付けない)、その証明を在日本の中国大使館・領事館で取得することは可能であり、これにより民法通則147条によって有効に成立した婚姻であると中国においても認められるが、これによっては、中国国内の婚姻登記はされない。つまり、中国では、中国国内で成立した婚姻に限って婚姻登記を行うものとなっており、日本と比べると属地的である。

 他方、中国で中国人と婚姻する場合は、中国の民法通則に従えば中国法によって行わなければならない(日本の法の適用に関する通則法に従えば日本法でも構わないことになるが、これでは中国法上不適法である)。従って、中国国内で日本人と中国人が結婚する場合は、先に中国の結婚登記所に出向き結婚登記をし、その後日本の領事館・大使館に出向き、または日本の市町村長に対し、報告的婚姻届を提出する流れとなる。

 中国で結婚登記を行う場合の必要書類は、中国人につき、戸籍謄本(戸口簿)、身分証、配偶者がおらず相手方が直系血族または3代以内の傍系血族には該当しない旨の署名入り声明書であり、日本人につき、パスポート(有効なビザのあるもの、身分証を兼ねる)、居住地の公証機関かつ日本の中国大使館・領事館が公証する(または中国の日本大使館・領事館が公証する)配偶者がいない旨の証明書である。

 なお、以前は、健康診断書の提出を要求されていたが、2003年10月1日施行の新婚姻登記条例以後は、義務ではなくなった。

 この添付書類からも分かるとおり、先に日本で婚姻した場合、中国で婚姻登記をすることには困難があるといえる。この点、婚姻登記が不可能なのかどうかについては、現時点でははっきりしないが、少なくとも、先に外国で婚姻した者が新たに中国国内で婚姻登記をすることを想定する法律や条例はいまのところない。

まとめ

中国人と日本人が結婚する場合・・・

(1)順序

日本で結婚→両国法上、日本法に基づく結婚をしなければいけない
中国で結婚→中国法上、中国法に基づく結婚をしなければいけない
(3ヶ月以内に追って日本に対し報告的婚姻届を提出)
第三国で結婚→中国法上、当該第三国の法律に基づく結婚をしなければいけない
(3ヶ月以内に追って日本に対し報告的婚姻届を提出)

(2)相違

しかし、日本法上の婚姻を先にしてしまうと、中国法上要求される「無配偶者証明書」を取得することが難しくなるので、中国で婚姻登記をすることができない可能性がある。但し、それが無理であっても、在日本の中国大使館・領事館で、日本方式で婚姻したことの証明を取得することはできる。

中国法上の婚姻を先にした場合は、日本法上の報告的婚姻届を3ヶ月以内に行わなければならない。

3 問題2 日本での離婚、中国での離婚
(1)管轄の問題

中国の裁判所(人民法院)に管轄があるか?

 まず、離婚裁判を始めるには、その申立をした裁判所に裁判管轄権がなければならない。この点、中国民事訴訟法においても、原則として被告の住所地に管轄があるが、被告が中国に在住しない場合で、訴訟物が身分関係である場合、原告の住所地の人民法院に裁判管轄がある(中国民事訴訟法23条1号)。

 従って、一方当事者が中国に在住している場合は、いずれにせよ中国の人民法院に裁判管轄権があることになる。

日本の裁判所に管轄があるか?

 日本人と中国人との間の国際離婚の場合、日本法では、被告の住所地に原則的な管轄があり、例外的に当事者間の公平、裁判の適正・迅速の理念も考慮した上で、、被告が行方不明の場合、原告が遺棄された場合、原告が相手国では提訴できない事情があるなどの場合には、原告の住所地に裁判管轄が認められる場合もある(最判昭和39年3月25日、最判平成8年6月24日などを参照されたい)。

 従って,一方当事者が日本に在住していても、被告が日本にいない場合は、日本の裁判所に管轄権がない可能性がある点注意が必要である。

(2)準拠法の問題

 中国の裁判所で離婚訴訟を行う場合、離婚原因があるかないかに関する法律(準拠法)については、中国法(中国の婚姻法)が適用される(中国民法通則147条)。

 日本の裁判所で日本人と中国人間で離婚訴訟を行う場合、2人が同じ場所に住んでいたらその国の法律で、別々の場合は、2人の最も密接な国の法律に従って検討される(法の適用に関する通則法27条、25条)。

 なお、離婚の効力のほか、財産分与・養育費の問題についても、ここで決まった国の法律に従って処理される。慰謝料については、不法行為地の法律によるものと思われる。

(3)二重訴訟があり得る場合の一方判決の影響

 日中双方で離婚訴訟が並行した場合に、一方が出した判決が他方に与える法律上の影響は、次のようなものである。

 中国において、外国判決(日本での判決)を執行(この執行には、単に離婚登記を行うことも含まれる)する場合、人民法院における承認(中国民事訴訟法267、268条)が必要となるが、その前提として、既に中国において離婚訴訟が係属してしまっている場合(判決に至らなくても、現在係属しているなら。過去に係属したが現在係属しておらず、確定判決も出ていない(取り下げられた)場合はこれに当たらない)は、そちらを優先するために、同じ訴訟物に関する外国判決は承認されない(最高人民法院が定める中国国民により外国離婚判決を承認するよう申請がされた場合の手続問題に関する規定[最高人民法院関于中国公民申請承認外国法院離婚判決程序問題的規定]12条4号)。

 他方、日本において、外国判決(中国での判決)を執行する場合、裁判所における承認(日本民事訴訟法118条)が必要となるものの、単に離婚届(既に外国で判決による離婚が成立した場合の報告的離婚届)を提出するだけの場合はかかる承認手続が不要とされているところ、いまだ日本において確定判決が出ていない場合は、仮に日本の裁判所で係属している場合であっても、その内容が明らかに民法118条各号に違反する場合でない場合であれば、かかる離婚届は受理される危険がある。

(4)一方で離婚が成立し、他方で成立しないという可能性

 日中間の司法共助が不十分である現状、一国で離婚が成立したものの、他国ではその手続きができないということは、十分あり得る。

日本で成立した離婚判決(または調停離婚)の中国における効力

 一般に日本の民事裁判判決については、そもそも日中間には判決効の相互保証の条約や慣習等がない等の理由で、中国では承認されない可能性が高い(中国民事訴訟法267,268条)。

 外国で行われた離婚判決(調停離婚)を中国国内の離婚登記に反映させようと思う場合、日本の戸籍法の実務とは異なり、人民法院の承認を得ることがまず必要となる。

 この点、過去に、日本で離婚調停が成立した場合に、中国の人民法院がその調停調書を審査した上で承認した事例がある(具体例:1991年5月28日北京市中級人民法院裁定)。しかし、これは当事者ともに中国人の事案であった。

 既述した最高人民法院が定める中国国民により外国離婚判決を承認するよう申請がされた場合の手続問題に関する規定[最高人民法院関于中国公民申請承認外国法院離婚判決程序問題的規定]第1条によれば、相互保証がない外国の判決であっても、中国人が外国離婚判決について人民法院の承認を求めることは明確となっている。但し、相手方が欠席判決の場合などは承認されない(同12条3号)。

 他方、外国人がかかる承認を求めることについては、いまのところ規定がない。正確にいえば、「最高人民法院が定める人民法院が受理した外国離婚判決の承認申請事件に関する規定[最高人民法院関于人民法院受理申請承認外国法院離婚判決案件有関規定]」第2条に、外国人による外国離婚判決承認申請の規定があるが、これが、中国民事訴訟法267,268条でいう相互保証がない場合についても、なお外国人に離婚判決の承認申請を認める趣旨か否かが分からないため、グレーな状態となっている。なお、仮にこの規定に基づき外国人が申請できるとしても、外国離婚判決上、中国人の配偶者に離婚原因があったとされる場合に限られる。

 なお、いずれにしても、相互保証がない場合について承認ができる範囲とは、離婚に関する身分関係についてのみであり、慰謝料・財産分与・養育費等の外国判決の決定については、これらの特例規定によって承認することができない。そうすると、原則に戻り、日本でのこの訴訟物に関する判決は、承認されない可能性が高い。

中国で成立した離婚判決(または調停離婚)の日本における効力

 同様に、中国判決については、日中間の判決につき「相互の保証」がないために、日本で外国判決承認手続きを経ることができない(日本民事訴訟法118条4号。大阪高判平成15年4月9日)。

 従って、中国の離婚判決に伴い、慰謝料や養育費・財産分与が命じられても、これを日本で執行することはできないと思われる。

 他方、外国で離婚判決が確定した場合、日本の戸籍法上、その原告が日本人であれば義務として、被告であれば権利として、その確定判決(確定の証明を要する)を添付して、離婚の報告的届出を行うことができる(日本戸籍法77条の準用する63条)。これにより戸籍に離婚の事実が反映される。つまり、民事訴訟法に基づく外国判決承認手続を経る必要はない。日本の戸籍実務では、民訴法118条の要件を「明らかに」満たさない場合は受理できないとされている(平成元年10月2日法務省民二3900通達第2の2前段参照)ものの、現時点において、前期大阪高裁判決は、離婚訴訟の場合まで118条4号の要件を欠くことを「明らかに」したとは言えないと思われるため、中国で行った離婚判決により日本の戸籍上「離婚」とできるようである。なお、中国の離婚判決が欠席判決の場合は受理されないとされているので注意が必要である。また、かかる届出を外国人が行うことは差し支えないが、この場合は、直ちに戸籍に反映させるとは限らないようである。

まとめ

 要するに、

日本での離婚判決を中国で中国人が人民法院の承認を得た上で離婚登記に反映させること
中国での離婚判決を日本で日本人が戸籍に反映させる(報告的離婚届の提出をする)こと

は、離婚判決が欠席判決ではない限り、原則として行えるようであるが、それ以外の場合は、他国で離婚判決を承認することにつき困難を伴う可能性が高い。その結果、跛行的な婚姻関係(一国では離婚成立→婚姻関係解消、一国では婚姻関係存続)が生じる可能性が十分あるということになる。

 このような点を総合的に衡量すると、たとえ関係が悪化して離婚もやむなしとなった場合であっても、可能な限り協議離婚(中国法上も協議離婚は存在する)で離婚する方が無難である。

4 結語
 結婚もそもそも契約であり、その契約に、日本の契約・中国の契約という「色分け」はない筈である。しかし、日中の制度の相違・判決の相互承認についての不備から、それぞれまるで別制度であるかのように立ちはだかる場面があることは、本稿のごくごく限られた記載の範囲でも散見された。

 日中の結婚は年々増加傾向にある訳であるし、この点についてより迅速に処理できる戸籍・婚姻登記・裁判制度が整備されることを強く望む次第である。

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